自然エネルギーへのシフトが進むなか、蓄電池への関心が高まっている。
不安定な自然エネルギーを利用するには、蓄電池とのセット利用が有効だ。国も高性能な蓄電池の開発を成長戦略の1つとして掲げている。
じわじわと注目を集めているのが、炭を使った蓄電池「炭EDLC」だ。急速充電が可能で、ひとたび導入すると物質的破損がない限り半永久的に使えて発火の心配がない。
こうしたなか、より低コストで安全な炭EDLCが島根県で誕生した。炭EDLC普及の起爆剤となるか…
安全性に黄色信号が灯ったリチウムイオン電池
電気自動車(EV)やスマートフォンなど新たな電子機器の普及により、高性能な蓄電池のニーズが高まっている。国も自然エネルギーへシフトするためには、蓄電池を積極的に利用することで安定供給を実現すると謳っている。
なかでもリチウムイオン電池への期待は大きく、市場調査を行う富士経済が発表した数字では、2011年に約1兆2000億円だった市場は、2016年に2兆2000億円に拡大している。
今後もリチウムイオン電池を軸に蓄電池市場は伸びていくと考えられるが、ここに来てリチウムイオン電池の市場性に黄色信号が灯るような事態が起きている。
昨年11月には、札幌市内の住宅で充電中のPHEV(プラグイン・ハイブリッド電気自動車)から出火、クルマと住宅を全焼する事故があった。
また韓国・サムスンの人気スマホモデル「ギャラクシー」の最新型「ギャラクシーNOTE7」のバッテリーから出火する事故が相次ぎ、サムスンはギャラクシーNOTE7を販売中止にしている。
ほかにもパナソニックが、スマートフォンや電動アシスト自転車のリチウムイオンバッテリーが発火の恐れがあるとし、その無償交換を実施している。
過去を遡るとソニーやシャープ、東芝、日立といったおよそのメーカーが自主回収や交換を余儀なくされている。
木炭EDLCで特許取得。 島根で誕生した「シンプルキャパ」とは
「エネルギー密度が高いということは、安全性が低い」とリチウムイオン電池の問題点を指摘するのは、島根県松江市にある国立・松江工業高等専門学校・電子情報科の教授、福間真澄さんだ。
福間さんは長年電気二重層キャパシタ(EDLC)に関して研究してきたが、このほど島根県産業技術センターや地元企業のサンエイトなどと共同で炭を原料とした木炭EDLC、すなわち炭蓄電池を開発した。
開発した炭蓄電池は、リチウムイオン電池と同様、充電して繰り返し使える。すでに製法特許を取っており、名称も「シンプルキャパ=Simple Capa」として商標登録も済ませている。
シンプルキャパの製造風景。7人で1日およそ4個入りセットが8箱できる
実は活性炭を使ったEDLCは昔から知られており、電気自動車や事務機などのバックアップ電源や補完電源として企業や大学などでも研究が進んでいる。だがエネルギー密度が小さいことがネックとなっていた。
福間さんたちが開発したシンプルキャパは、リチウムイオン電池の50分の1の密度。つまり単純にリチウムイオン電池の電気容量を持たせるとなると容積が50倍必要となる。
現在生産している蓄電池単体は12㎏で、250Whを充電することができる。電気事業連合会のデータによれば、日本の1世帯あたり平均の電気消費量は1カ月271kWh(2013年)で、1日約9kWhだ。
これを賄うとなるとこのタイプの蓄電池を36個用意する必要があるが、これはお湯なども電気で沸かしたものも含む。
「経済産業省などは1世帯4kWhがあればとりあえず十分だとしています。ただ200Whの照明を5時間持たせるのであれば、1kWhの蓄電池が要りますが、100Whを5時間なら500Whで十分。
要は使う用途に合わせて充電容量を増やしていけばいい。現在エネルギー密度を上げる研究を進めていて、2倍まではメドができています。とすると今の半分までは落とせます」